いま話題の渦中にある「新型コロナウィルス感染」ですが、こうした誰もが関心を寄せる情報に乗じて、根も葉もないデタラメ情報を発信する人がいます。そうした行為の背景には、何らかの悪意の目的を秘める場合と、一種の愉快犯のように単に世間を騒がせたいという幼稚な思いつきとがありますが、いかなる動機にしても、それらによってもたらされる結果は社会全般に甚大な損出を招くことに違いはありません。

トイレットペーパーの買い込み

今回、国内の各地で発生、もしくは発生途上にあると思われるトイレットペーパーやティッシュペーパーの買い込みは、SNSなどで発信・拡散されたデマによって発生しています。すでに、マスクや消毒剤などが店頭から姿を消して1、2ヶ月が経ていますが、今度は紙製品に広がったようです。
デマの始まりは、「トイレットペーパーなどの原料は中国からの輸入であり、今回の新型コロナウイルス感染により生産と輸入がストップするだろうから、トイレットペーパーが不足するに違いない」という極端な連想によって導き出されたデマであり、それを信じた人々が店頭に殺到したということのようです。
ちなみに、国内で消費されるトイレットペーパーやティッシュペーパーのほとんどは、原料から製品に至るまで国産品であり、中国産ではありません。

今回のデマ情報ですぐに思い出されるのは、1973年/昭和48年に起きた第一次石油危機の折に、日本国内で発生したトイレットペーパーや家庭用洗剤などの買い占め騒動です。石油とは直接の関係が考えられにくいトイレットペーパーや洗剤の買い占めが発生し、それによって、石油とは関係のない市場にまで混乱が及んでしまいました。その結果、多くの人の日常生活だけでなく、経済活動全般にまで大きな影響が出てしまいました。
当時のことを知る人は、今回のトイレットペーパーに対する無知ともいえる買い込み行動に踊らされる人々を見て、「ああ、またか」と思われたことでしょう。

確たる証拠もないデマやフェークニュースに踊らされて、浅はかな行動に移す人は少数派ではなく、むしろ多数派のようです。そして、それが消費者の日常的行動です。
テレビ番組で、健康や長寿の秘訣などとしてある種の食品やその食生活が紹介されると、翌日にはスーパーマーケットの棚から該当商品がすっかり姿を消している、そんな状況が日常的に起きているのが現実です。

ウィルスに勝るデマの感染力

現在は、インターネットの普及により世界中の人々が、リアルタイムで多種多様な情報に接し、またそうした情報を発信したり、その中継となって拡散することが容易にできてしまう時代です。
そうした環境下でのデマやフェークニュースは、あたかも強力な感染力を備えたウィルスのように、瞬く間に世界中を席巻してしまうほどの伝染力(伝播力)を有しています。まさに、このことは新型コロナウイルスによってもたらされる伝染の脅威よりはるかに大きな危険性を孕む脅威です。

デマやフェークニュースの感染力は、インターネットの存在しなかった時代にあっても、度々発生し、口コミによって拡散され、社会に深刻な影を落としてきたという歴史があります。
古くは「米騒動」や「材木騒動」、それに近年では「関東大震災での外国人殺傷事件」など、歴史を顧みれば数多くの事例を知ることができます。そして、それらの中は、意図して捏造・拡散された情報もあり、それによって何らかの利を得た者が存在したことも偽らざる事実なのです。

インフルエンサーが蠢く土壌

それにしても、インターネットの無かった時代に、デマやフェークニュースはどうやって伝播したのか、どうすれば無謀な集団行動に人を駆り立てることができたのか、と考えざるを得ないのですが、実際にはそれほど難しいことではないのかもしれません。
つまり、多くの人は、突如として現れた何らかの脅威や危機に際したとき、平常心を失い、冷静な判断ができなくなるという本質を秘めているということではないかと思うのです。
そこに、僅かでも嘘の指標が示されれば、何の疑いもなく、誤った目標に向かって突き進んでしまうという一種の集団感染に陥ってしまうと考えられます。
ただ、こうした集団感染は、単に嘘や間違った情報が放たれただけでは起きにくいのですが、それが強力な伝播を得るのにはいくつかの下地となる土壌(社会環境)が考えられます。
例えば、それは経済の先行きに対する不安であったり、または政治への不信感、あるいは社会に対する慢性的な閉塞感などがデマやフェークニュースというウィルスを増殖・拡散しやすくする土壌(社会環境)であると考えられます。
土壌(社会環境)は、その時々によって異なりますが、人々の心に深く根ざして、デマやフェークニュースに扇動されやすい心理状態を醸成します。

賢い消費者のはずが…

現在の日本の成熟市場における消費者は極めて賢く、豊富な商品知識と研ぎ澄まされた選択眼を持つと思われてきましたが、しかし、現実はさもあらずで、デマやフェークニュースの持つ悪魔的伝染力(伝播力)にかくも脆弱であることが露呈しています。これがマーケティングに携わる者として、何とも歯がゆく思われる市場の現実です。

インターネット情報の中に、新型コロナウィルスへの感染警戒により、生産・流通活動が停滞するとして日用品や食料品の品薄を予想して買いだめをそそるような文言を目にします。この機に及び、なんという愚かな情報発信であることでしょう。
新聞やテレビのようなマスメディアでなくとも、インターネットを通してリリースされる情報が、いつどのような形でフェークニュースの元凶となり得るかは分かりません。それゆえに、ネットワークにおける情報は常に慎重に扱われるべきであるとともに、情報に接する人は、情報の真否を見定める選択眼をさらに研ぎ澄ますことが重要です。

今回は、Webマーケティングとは少し異なるお話となってしまいました。しかし、現在起きている出来事をマーケティングの視点から俯瞰すると、意外にも隠れているものが見えてくるかもしれません。トイレットペーパーやティッシュペーパーの需給バランスを崩し、それによって利を得るのは誰なのでしょうか、また、その逆に害が受けるのは誰なのでしょうか。
いつの時代にあっても、悪意のデマやフェークニュースに踊らされない健全で公正なマーケットを保ちたいものです。